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    マイケル・ジャクソンが愛したスーパー・ギタリスト達

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

     マイケル・ジャクソンが2009年6月25日に亡くなってから、早くも3年半が経つ。だが、彼の音楽はまったく衰えることのない人気を誇り、2011年にはシルク・ド・ソレイユによるマイケルを題材としたショー『ジ・インモータル』が海外で上演されたし、1987年のアルバム『BAD』の25周年記念盤もリリースされ、好調なセールスを記録している。

     『BAD』の2012年最新リマスターとレア・トラック/未発表曲を含む2枚組“スタンダード・エディション”に加え、7万2千人の大観衆を動員した空前のスタジアム・ライヴを収めたDVD『ライヴ・アット・ウェンブリーJULY 16.1988』を加えた“デラックス・エディション”も発売(DVDは単体販売も)。5.1chサラウンド音声でマイケルのライヴ・スペクタクルを体験することが出来る。

     世を去った今もなお“キング・オブ・ポップ”として音楽界に君臨し、ダンスでも常に新しいフォロワーを生んできたマイケルだが、その音楽性の幅の広さは、我々ファンが知る以上のものだった。彼は常にMTVで最新の音楽をチェックし、自宅にはロックからクラシック、世界各国の民俗音楽など、膨大な数のレコード/CDがあったという。

     そんな中で、マイケルが特に気に入っていたのが、ハードでテクニカルなエレクトリック・ギターだった。彼は常に自分のライヴ・バンドでテクニカル・ギタリストをフィーチュアし、また、スタジオ作品でも多数の名ギタリストをゲストに迎えてきた。

     彼のバンドに参加、1987年以降の日本公演にも同行して世界にその名を知らしめたのが、ジェニファー・バトゥンだった。女性ギタリストを起用するというコンセプトについて、ジェニファー自身は「プリンスのバックをウェンディ&リサが務めたことからアイディアを得たのでは?」と語っていたが、何よりも、彼女のギターの腕前が優れたものだからというのが理由だろう。彼女は1990年代後半にはジェフ・ベックの相棒として活躍、ソロ・アーティストとしても作品を発表している。

     結局実現しなかったが、2009年にロンドンで行われる予定だった『THIS IS IT』コンサートでリード・ギタリストに抜擢されたのが、当時24歳のオリアンティだった。オーストラリア出身の彼女は、縦横無尽のタッピングを含むテクニックを持ち備えた実力派ギタリストであり、映画『THIS IS IT』ではマイケルとのリハーサルで弾きまくる彼女の姿を見ることが出来る。マイケルの死によって、彼女はライヴに参加することは出来なかったものの、現在はアリス・クーパーのバンドで、そのプレイを披露している。

     ジェニファーとオリアンティに共通しているのは、当時まだ場数を踏んでいなかった彼女たちに対して、マイケルが「大丈夫、自分らしく弾けばいいから」と親身になってアドバイスしていることだ。二人は声を揃えるように「マイケルは優しく暖かみのある、素晴らしい人物だった」と語っている。

     マイケルとギター・ヒーローのコラボレーションで最も有名なものは、『スリラー』(1982)収録の「今夜はビート・イット」でのエディ・ヴァン・ヘイレンとの共演だろう。この曲でのタッピング・ソロはまさに名演で、デビュー当時からギターに革命を起こしたと評価されてきたエディを、さらにメインストリームに押し上げることになった。このソロはノーギャラで弾いたそうだが、ヴァン・ヘイレンの『1984』(1984)が世界的なベストセラーになるのに貢献したことは確かである。

     続く『BAD』にはスティーヴ・スティーヴンズがプレイしている。ビリー・アイドルの『反逆のアイドル』(1983)でトップ・ギタリストの仲間入りを果たしたスティーヴは、「ダーティ・ダイアナ」に参加。ビデオにも出演している。

    (前述の『ライヴ・アット・ウェンブリー』ではスティーヴそっくりの髪型をした人物がギター・シンセ“シンセアックス”をプレイしているが、それはスティーヴではなくキーボード奏者のクリス・カレル)

     『デンジャラス』(1991)収録の「ギヴ・イン・トゥ・ミー」では、当時ガンズ&ローゼズのギタリストだったスラッシュとの共演が実現している。その後、2人の間には友情が生まれ、最後に共演したのは2001年9月10日、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでのマイケルのコンサートだった(スラッシュは「翌日、同時多発テロ事件があったから、よく覚えている」と語っている)。スラッシュはオジー・オズボーンやレミー、イギ—・ポップらゲスト・シンガーを迎えたアルバム『スラッシュ』(2010)を発表しており、その制作段階でマイケルにも参加を打診することを考えていたが、具体的にどの曲を依頼するか決める前の段階で、マイケルは亡くなってしまったのだった。

     『ヒストリー』(1995)からの「ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス」に参加しているのは、元イエスのトレヴァー・ラビンだ。マイケルはイエスの「ロンリー・ハート」(1983)を聴いて、同じようなサウンドを得たかったのだという。

     マイケルの生前最後のアルバムとなった『インヴィンシブル』(2001)では、「ホワットエヴァー・ハプンズ」でカルロス・サンタナとの共演を果たしている。

     さらに、ジャクソンズ名義で発表したマイケルとミック・ジャガーのデュエット「ステイト・オブ・ショック」はマイケルとランディ・ハンセンの共作曲だ。ランディはジミ・ヘンドリックスなりきり系で知られるギタリスト。正直それほどメジャーでない彼の楽曲を起用するとは、決して有名ギタリストでなくとも、その実力を見抜くマイケルの眼力を窺わせる。

     1996年、『ヒストリー』に伴うツアーの一部で、ジェニファーの代役として同行したグレッグ・ハウは、1988年に速弾き系レーベル『シュラプネル』からデビューしたギタリスト。イングヴェイ・マルムスティーンやマーティ・フリードマン、ポール・ギルバート(Mr.BIG)らの後輩にあたるテクニカル・プレイヤーだ。彼はシルク・ド・ソレイユの『インモータル』開演にあわせてリリースされた同題アルバムにおいて、「今夜はビート・イット」「ダンシング・マシーン」で新たにギター・ソロをレコーディングしている。

     ポピュラー音楽の歴史において、永遠のスーパースターとして聴かれ継がれるであろうマイケル・ジャクソン。彼の音楽を彩ったギタリスト達もまた、魅力的なプレイで彼を支えてきたのである。



    ●紹介アルバム
    -『BAD』25周年記念デラックス・エディション
    (4枚組:3CD+1DVD ソニーEICP1541-4)

    -『BAD』25周年記念スタンダード・エディション
    (CD2枚組 ソニーEICP1545-6)

    -『ライヴ・アット・ウェンブリーJULY16.1988』
    (DVD ソニーEIBP130)

    2012年10月11日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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