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    ライヴらり8月号前編:音楽をまとめるための智慧と力と勇気

    配信日: | 配信テーマ:ジャズ

    8月のライヴからは4本をピックアップ。

    まずは“アルバム・デビュー20周年”でまだまだ“攻め”の姿勢を崩そうとしない意気込みを披露してくれたクリヤ・マコト率いるRHYTHMATRIX(リズマトリックス)のステージを、目黒のブルース・アレイ・ジャパンで観た夜のことから始めましょうか。

    クリヤ・マコトの活動は、“ド・ジャズ(いわゆるビバップ系のストレート・アヘッドなジャズのこと)”からファンク、ポップスに至るまで多岐にわたるのですけれども、そのなかでリズマトリックスは“ラテン・ジャズ”を軸に、挑戦と進化を続けている“集合体”です。

    ピアノのクリヤにベースのコモブチキイチロウ、パーカッションの安井源之新、最近ではドラムの村上広樹が加わって、リズムの比重が大きいジャズ・サウンドをクリエイトしています。

    当夜のファースト・セットでは、ラテン・ジャズを象徴する名曲「マンテカ」をオープニング・チューンに選び、この“集合体”の名人技的なリズム感を挨拶代わりにガツンと“魅せて”くれました。その後は、本日のゲスト1人目、ギターのSaigenjiが入って、キャロル・キングの名曲「イッツ・トゥ・レイト」の弾き語り。その後も、客席にいたドラムの斉藤純を引っ張り上げたり、ヴォーカルの上田裕香も加わったりと、ステージ上は楽器と出演者があふれたお祭り騒ぎ状態。

    さらにセカンド・セットでは、ドラム・カフェ・ジャパンの太鼓隊が乱入して“ぶっつけ本番のアドリブ合戦”が行なわれるなどエスカレート。“ラテン”という前置きのあるジャズならではの柔軟性と楽しさをタップリと味わわせてくれる展開になりました。

    ただし、このようなゲストが入り乱れる、一見まとまりに欠けるようなステージ構成になっても、すべてを受け入れてリズマトリックスのサウンドのヴァリエーションに再構築してしまうところはあっぱれ。

    だからこそ、当夜のライヴは“セッション”ではなく、“リズマトリックスのステージ”だったのだと、アンコールで総立ちになる客席で納得させられた夜でした。

      ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪

    前半の2本目は、ライヴ本番ではなく、リハーサルを紹介します。

    その日は横浜の関内にあるKAMOMEというライヴハウスに、the MOST(ザ・モスト)というバンドの取材のために出向いたのですが、インタビューの前に、当日の夜にその店でライヴがある彼らのリハーサルに立ち会うことができました。

    ザ・モストは、サックスの多田誠司、ピアノの片倉真由子、ベースの上村信、ドラムの大坂昌彦によるバンドで、メンバーそれぞれが曲を持ち寄って演奏するという、硬派なコンセプトを貫きながら結成12年を迎えました。

    ジャズの場合、レギュラー・バンドであってもリハーサルを念入りに行なうことは稀で、このザ・モストも例外ではありませんでしたが、6枚目となるアルバム『True Courage』がリリースされることもあって、慣れない新曲をスタジオでの録音状況とは異なるライヴ・ヴァージョンへと組み立て直そうとするようすを垣間見ることができて、とても興味深かったです。

    スタンダード曲を自分たちの解釈で崩していくスタイルと違って、ザ・モストのようなオリジナル曲主体のレパートリーの場合は、もともとの曲のイメージをゼロから、メンバー同士がお互いの出す音を聴きながらバランスを整えて仕上げていかなければならないわけです。

    演奏をスタートさせても、しばしばメンバーの誰かが「いまのところだけど……」と中断させ、それぞれがアイデアを出し合いながらまた音を出してみる――。2度目よりも3度目、それよりも4度目と、同じ部分を繰り返すうちに、なんとなく最初はメロディとハーモニーとリズムがギクシャクしていたものが、スーッと1つの塊になっていくから不思議です。

    時間は短かったのですが、プロとしての手際のよさはもちろん、12年続いているバンドならではのコミュニケーションの密度と、そこから生み出される“新たな音楽の息吹”を感じることができたひとときでした。





    【concept】
    コラム担当の富澤えいちが観に行ったライヴをピックアップして、まとめてお伝えします。出演者やジャンルの特徴をつかむポイントを織り交ぜながら、ライヴ会場の雰囲気や、楽しく過ごすためのコツなどにも触れていきますので、ジャズ・ライヴを攻略するヒントにしてください。

    2012年9月20日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:富澤えいち

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