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    今後の音楽シーンを作っていくエルダーマーケット発のヒット曲~富澤一誠 第3回

    配信日: | 配信テーマ:Jポップ

    (取材・文:竹部吉晃、広川たかあき)

    「エルダーマーケットを開拓すべき」というテーマのもと展開している一大ムーブメント「Age Free Music」。その理念自体は、実を言えば、それほど新しいものではない。70年代から一貫して音楽シーンを支えてきた評論家・富澤一誠氏も以前から提唱していたひとりだった。

    「意見としては10年以上前からあったものの、まだまだ余裕があった頃にはなかなか本腰を入れようという会社はありませんでした。それが、3年前辺りから各社で本気に取り組む姿勢が見えてきました。ちなみに、ヨーロッパでは若年層と中高年層のマーケットが、既に逆転しています」

     立ち上げには、当時日本レコード協会の石坂敬一会長の協力が、大きな役割を果たした。当時ユニバーサルの会長も務めていた石坂氏(現ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役会長 兼 CEO)が、先頭に立って「Age Free Music」に参加したことで、他のメーカーも興味を示し、プロジェクトの輪は徐々に拡大していった。

    「メーカー以上に危機感を持っているのがCDショップです。ただ、従来のキャンペーンはあくまでメーカー主導の感がありました。なので、今回はショップの意向をくみ、より効率のいいカタログ活性化を進められるよう働きかけました」

     ここまでの流れは順調そのもののようにも見えるが、当事者にとっては決して楽な道のりではなかったらしい。

    「何しろ緩やかな連合体であり、16社をまとめて行くには、頭ごなしに命令して突っ走るわけにもいかず、徐々に進めていくしかない。でも、早くしないとタイタニック号になってしまうんです(笑)。ただし、これが成功したからと言って、そこで安心するわけにはいかない。一息つける状態になったところで、次の展開を考える必要があるんです」

     富澤氏の考える“次の展開”とは、エルダーマーケットをターゲットに、新曲をリリースしていくというもの。これについては、すぐに売れるのかという不安がどうしても拭いきれず、正直、腰が引けている部分もあるという。

    「でも、その一歩を踏み出さないと、秋川雅史の『千の風になって』も、すぎもとまさとの『吾亦紅』も、秋元順子の『愛のままで…』も生まれなかったんです。だから、これに関しては、率先してやると宣言してます。ただし、5億円のスーパージャンボを狙うのではなく、100円で買える1000万円の宝くじを買おうと言っているんですよ」

     テレビのタイアップを含め、大掛かりなプロモーションを計上してメガヒットを狙う方法とは別に、限られた予算の中でスマッシュヒットを狙っていくことが、「Age Free Music」にふさわしいと富澤氏は語る。

    「もう一つは『オンリー・ユー・プロジェクト』と言って、テーマにふさわしい歌い手、曲の作り手に『あなたしかいない』と思いを伝えて交渉していく方法です。こうして出来上がった曲は、まずラジオなどメディアに乗せて反応を確かめてみる。いい反応が返ってくれば、その時点からさらに突き進んでいけばいいと思います」

     長年にわたって音楽評論の第一線に立ち続けてきた富澤氏だが、意外にも「音楽はもともと言葉にできない」という強い思いを持ち続けてきたという。

    「それをどう言葉にするかというのが、各々の評論家の仕事なんですが、僕の場合は音楽の背景を伝えていく中で、アーティストの生きざまを書くしかないと信じているんです。つまり、評論というより生きざま論ですね」

     これまでの着実な実績を受けて、「Age Free Music」の第8弾が7月から実施されることも早々と決定している。

    「キャンペーンの中にも含まれていた由紀さおりが、ピンク・マルティーニとコラボしたニューアルバム『1969』が、現在大ヒットを記録中です。このように、過去の名曲の中には、現在改めて聴くことで、新たな魅力が発見される作品も少なくない筈。そういった発掘をして、フラッグに掲げることも、『Age Free Music』の大事な役割のひとつになってくると思っています」
    (全3回終了)


    富澤一誠(とみざわ・いっせい)

    1951年、長野県須坂市生まれ。東京大学文科III類中退。歌謡学校に通い歌手を志すが挫折。その後、ニューミュージックの前身である日本のフォーク&ロックのイベントに参加。71年、音楽誌への投稿を機に音楽評論活動に専念。現在、ジャパニーズ・ポップス専門の音楽評論家として、独自の人間生きざま論を投影させ、広く評論活動を展開。39年に及ぶ評論・執筆活動において、一貫して追い求めているテーマが“青春生きざま論”である。そして常に“情熱的”に生きることを若者達に訴え続けている。レコード大賞実行委員、尚美ミュージックカレッジ専門学校客員教授。
    『松山千春─さすらいの青春』『さだまさし──終りなき夢』『俺の井上陽水』『フォークが聴きたい』『Mの黙示録 ミリオンセラーは教えてくれる』『フォーク名曲事典300曲』など著書多数。最新刊は『大人の音楽 Age Free Music』(ヤマハミュージックメディア)

    2012年5月10日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 

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