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    ハイ・オン・ファイアー/マット・パイク・インタビュー

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

     ある特定のロック・ファンにとって、ロックバンド「スリープ」の名前は畏怖すら伴うものだ。サンフランシスコ出身の伝説的ストーナー・ドゥーム・バンド(ドゥームメタルの1ジャンル)である彼らが1996年に制作したアルバム『エルサレム』は全1曲、52分におよぶ一大巨編。 当時レコード会社から発売を拒否されながら、彼らを崇拝する世界中の信者の後押しでリリースが実現したという曰く付きの作品だ。このアルバムは、“ドープスモーカー”騎士団が聖地エルサレムを目指す叙事詩であり、禁断のバイブルとして聴かれ続けている。

     レコード会社にアルバム発売を拒絶されてにっちもさっちも行かなくなって解散したというスリープだが、ギタリストのマット・パイクが現在率いているバンドがハイ・オン・ファイアーだ。これまで5枚のアルバムを発表、成功を収めている彼らは、最新作『スネイクス・フォー・ザ・ディヴァイン』を引っ提げて2011年3月に『Extreme The Dojo Vol.26』(共演:メルヴィンズ、アンアースリー・トランス)で3度目の来日公演を敢行。大阪・名古屋公演を大成功に収め最終日・11日、東京でのライヴを残すのみだった。だが、その当日、東北大震災が日本を襲う。東京公演は中止となり、彼らはそのまま帰国することになった。

     このインタビューは大震災の翌日、3月12日に行われたものである。「昨日は眠れなかったよ」と語るマットだが、いくつかのインタビューをこなすあたりはさすがプロ。彼と共に、『エルサレム』への道を遡ってみた。

    ●ハイ・オン・ファイアーを結成して、アップテンポの曲が増えましたが、それはスリープ時代からあなたの中にあった音楽性ですか? それとも比較的最近のもの?

     スリープ時代から、俺はちょっとばかりスラッシュ・メタルっぽいギター・リフを取り入れようとしてきたし、それに対して、アル(シスネロス/現オム)はスローでダブっぽいグルーヴを試みたりしてきた。両者の個性がぶつかり合い、溶け込み合うことで、スリープの音楽性が築かれたんだ。ハイ・オン・ファイアーを結成して、俺がメインになって曲を書くようになったことで、アップテンポの曲が増えたということはあるだろうな。ただ俺も速い曲一辺倒ではなかった。『ホーリー・マウンテン』(92)の「ザ・ドルイド」や「アクエリアン」は俺がほとんどの部分を書いた曲だけど、それほど速くないしね。「エルサレム」にしてもそうで、ひとつのリフを叩き台にして、俺とアルがジャムをやることで発展させていった。何せ52分あるから、曲の構成を表にしてまとめなければならなかったり、すごく苦労したよ。2分ぐらいあるギター・ソロも入っているし、どこでどんな展開をするか、かなり頭を悩ませた。ただダラダラとジャムをしてレコーディングしたわけじゃないんだ。

    ●「エルサレム」とハイ・オン・ファイアーの「ブラッド・フロム・ザイオン」も、ヘヴィ・ロックに宗教色を加味するというコンセプトに共通する部分がありますが、それもまた連続したテーマなのでしょうか?

     意識したものではないけど、「エルサレム」と「ブラッド・フロム・ザイオン」が地続きであることは確かだろうね。もしスリープが解散していなかったら、あの曲はスリープのアルバムに入っていたかも知れない。「ブラッド・フロム・ザイオン」はスリープの解散後、初めて書いた曲なんだ。あのとき、俺は初めてバンドのヴォーカリストとなった。だからスリープのヴォーカリストだったアルがやっていたことを、自分でもやってみようとした。その結果がハイ・オン・ファイアーのファースト・アルバム『ジ・アート・オブ・セルフ・ディフェンス』(00)だったんだ。幸運なことに、ドラマーのデズ・ケンゼルと出会うことが出来た。彼と出会ったことで、バンドは軌道に乗ることが出来たんだよ。デズとはすべてがしっくり行くんだ。ほとんど夫婦みたいな関係だよ。

    ●『エルサレム』はどのようにして生まれたのですか?

     確かイギリス・ツアー中、ホテルの部屋でのことだった。アルが俺のギターを手にして、メイン・リフを弾き始めたんだ。そのリフが頭から離れずに、ツアー中ずっと同じリフを繰り返し弾いていた。ツアーが終わった後、俺たちはメジャーの『ロンドン・レコーズ』と契約するはずだったけど、その前のアルバム『ホーリー・マウンテン』を出した『イヤーエイク・レコーズ』が俺たちを手放したくなくて、少し揉めたんだ。で、弁護士が間に入ったんだけど、古い契約から解放されるまで、俺たちは毎日スタジオで同じリフを弾いて、曲の形にどうまとめるか実験していた。そうして「エルサレム」が形作られていったんだ。精神的には決して楽ではなかったよ。何の保障もない状況下でリハーサルしていたし、母が病気だったしね。

    ●『ロンドン・レコーズ』のスタッフが初めて『エルサレム』を聴いたときの反応は、どんなものでしたか?

     「ラジオ用のシングル・エディットも作ってくれる?」と言われた(笑)。60分以上の曲を4分に短縮しろっていうことだから、思わず笑ってしまったよ。でも、彼らはそれが気に入らなかったようで、彼らとの関係は徐々に険悪になっていった。ラジオやMTVで曲を流して、プロモーションしたい彼らの意向は判るけど、無理なものは無理なんだ。「エルサレム」はひとつの巨大な叙事詩だし、切り貼りすることなんて出来ないんだよ。だいたい、連中にはアルバムがどんな内容になるか、事前に伝えてあったんだ。全1曲の、すごく長い曲になりますってね。あの頃、俺たちはクレイジーな若僧だった。世界で最もエクストリームなレコードを作ろうとして、音楽の可能性の境界線をプッシュしたんだ。そしてその試みは、成功したと思う。『エルサレム』は世界中の数多くの人々の心の眼を開いてきたし、あのアルバムを作ったときのことを、今でも訊かれる。レコード会社に「こんなもの出せるか!」と却下されたアルバムとしては、悪くない評価だよな。一度はお蔵入りになったのに、ブートレグ(非合法商品)が出回って、結局ファンの後押しで公式リリースされたしね。

    ●1999年に52分ヴァージョンの『エルサレム』が公式リリースされた後、2003年になって62分ヴァージョンの『ドープスモーカー』が世に出ましたが、あなた自身はどちらを気に入っていますか?

     『ドープスモーカー』の方がミックスもマスタリングも良いし、ロング・ヴァージョンだから歌詞も多く入っているし、俺たちが求めていたものに近い。最初、『ドープスモーカー』のマスターテープをレコード会社に聴かせたんだ。彼らはそれを気に入らず、リミックスとエディットさせて52分にした。おいおい、と思ったよ。62分じゃダメだからって、それを52分に短縮したら売れ筋になるとでも思ってるのか?ってね(笑)。まあ、『エルサレム』も嫌いじゃないよ。別作品として2つを気に入っている。

    ●ところでスリープは1992年にシングル『Vol.2』を発表、ブラック・サバスの「ロード・オブ・ディス・ワールド」をカヴァーしていますが、それは誰のアイディアだったのですか?

     うーん、覚えてないな。俺かアルのアイディアだよ。「サバスのカヴァーやろうぜ」「オッケー」って感じで、その場でワン・テイクで録音したんだ。それからしばらくして、スイスのインディーズ・レーベル(『オフ・ザ・ディスク』)がアルに連絡してきて、俺たちのレコードを出したいというんで、そのテープを送った。それだけだよ。『Vol.2』は今では超レア盤で、凄いプレミアが付いているけど、俺は1枚も持っていないんだ。全部友達とかにあげてしまったよ。何枚か手元に置いておけば良かったな(苦笑)。

    2011年6月16日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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