
今回の会場となったのは東京・国立代々木競技場第二体育館。ご存じ、独特のフォルムを持つ美しい外観もさることながら、1964年開催の東京オリンピックでバスケットボール会場となり、以来、日本バスケの各種大会や日中親善卓球大会など、数々の名勝負と歴史を彩ってきた場所です。そんな由緒ある場所が舞台とあって、演奏者でなくとも自然と気分は高揚気味。円錐形の天井と円形のアリーナが印象的な館内では着々と会場設営が進められていきます。
一方、外に目を向ければ、参加者たちが楽器を携えて開場30分前には、受付開始を待つ長~い行列が…。もちろん、そこに並ぶ人々の演奏経験やレベルは個々それぞれ。そして、首都圏でおこなわれる最大規模の自由演奏会だけに、東は宮城県、西は兵庫県と、はるばる遠方から参加の方々もいらっしゃいます。音楽を愛する人なら、どこからでもどなたでも参加できるのが、「自由演奏会」たる所以。巻き貝を思わせる外観を背に並ぶ演奏者たちを眺めながら、この会場に今日はどんな音が響き渡るのか、期待は高まっていくのでした。
玄関ドアが開くや否や、どっと流れ込むように会場入りする参加者たち。ロビーで受付を済ませたら、観覧用のスタンド席を通って、アリーナに設けられた演奏席へと下りて行きます。イスが所狭しと並べられた円形アリーナは圧巻!その光景を見た途端、思わず立ち止まってしまう女子高生や、「おぉー!」と歓声をあげながらスタンドを駆け下りて行く若い男性の姿もあります。
アリーナに下りると参加者たちはまず、自分が座る席を確認します。演奏席は楽器ごとに区分されていますが、自分の楽器内であればどこに座ってもOK!演奏席付近の各所には演奏楽曲の楽譜が楽器別に用意されているので、それを係員から受け取って、いざ、準備開始。あちこちから試奏の音が鳴り出します。
12時過ぎには、演奏席はほぼ埋まり、試奏の音もかなりの大音量に。雑然とした音のはずなのに、どこか心地よく聞こえるから不思議です。


思い思いに参加者たちが試奏する中、壇上に司会の里館博子さんが登場。いよいよリハーサル開始の合図です。まずは会場の説明や参加者への質問などで、ちょっと緊張気味の会場の雰囲気を和ませます。
里館さんの問いかけで判明したのは、演奏経験3年未満という方が比較的多いこと。もちろん、40年以上というベテランさんもいらっしゃいます。そして、久し振りに演奏するという方の姿も目立ちました。でも、それが自由演奏会!演奏年数やレベルなんか関係なく、いろんな思いと音が混じり合って、ひとつの心と曲になっていくんです!
でもその様々な音をどうまとめていくか、大きな鍵を握るのは指揮者。今年、合奏指導と指揮をしてくださるのは、東京ニューシティ管弦楽団の首席指揮者を務める他、世界各地を舞台に多方面で活躍する曽我大介さん。そして、作曲・編曲家として、吹奏楽曲はもちろん、数多くの有名楽曲を手掛け、国内外で高い評価を得ている真島俊夫さんです。
そのおふたりが壇上へ。「昔、隣の公園でよく練習していたので、ここは懐かしい場所。今日は楽しみたいと思っています。よろしく」と曽我さん。続いて真島さんも「今日もすごい人数で驚いています。楽しみましょう」と挨拶されました。
さぁ、待ちに待ったリハーサルがスタート。本番で演奏されるプログラム順に沿って練習はおこなわれていきます。今回はNHKの取材も入り、気合が入ります。
※ 演奏会の模様は、翌27日の18:10~NHK総合『首都圏ネットワーク』で放映されました!
前半の『ラデッキー行進曲』から『バンドのための民話』、そして『吹奏楽のための第一組曲』までを指揮・指導するのは曽我大介さん。“今日も一日がんばろう”とプリントされた黒Tシャツにスニーカーという、とってもラフな装いで登場です。
まずは、『ラデッキー行進曲』の重要な部分、出だしのパーカッションによるドラムマーチから練習開始。いきなりの曲演奏にパーカッションの演奏者たちは少々戸惑い気味? 最初は音が揃いません。が、気を取り直して再度演奏を始めれば、ちゃんとカタチになっちゃうところはさすがです。そしてすぐに全楽器を加えての通しの演奏へ。今回の『ラデッキー行進曲』は曽我さん自らのアレンジ版での演奏ということで、指揮するほうも演奏するほうも熱が入ります。
『バンドのための民話』と『吹奏楽のための第一組曲』は、どちらの楽曲も吹奏楽経験者にとってはポピュラーな曲。とはいえ、大編成による演奏、しかも今日初めて顔を合わせた人同士がほとんどの即席楽団。そうそう初めから上手くいくわけもなく、曽我さんの妥協を許さない厳しくもユーモアあふれるアドバイスが随所に細かく入れられていきます。「指揮なんか見なくてもいい。でも皆さんの心の中で合わせてほしい」「なんだか音が息切れしているように聞こえます。もっと軽やかに!」などなど、曽我さんが指導していく度に演奏席がひとつにまとまっていきます。三曲を終えた時点で「バッチリ、完璧です!」との合格点をもらい、演奏席からはホッとしたような笑顔があちこちで見られました。
しばしの休憩を挟み、リハーサルは第二部へ。指揮台に登壇したのは真島俊夫さん。ご自身が編曲を手掛けた『宝島』『オーメンズ・オブ・ラブ』の指揮・指導をしてくださいます。そして、ここからはサプライズゲスト、『ニュー・サウンズ・イン・ブラス』の録音などにも参加されているドラム奏者の染谷太郎さんが参加。染谷さんのドラムで大編成による大合奏をリードしてもらおうというわけです。あれ?その隣でサイレントベースを弾いているのは?さっきまで指揮台に立っていた曽我さんじゃないですか!曽我さんと染谷さんが加わり俄然会場はヒートアップしていきます。
第二部最初は打楽器の軽快なパートからスタートする『
宝島』。シンコペーションによって作り出される独特のリズムに聴衆も自然と身体が動きます。細部にまで徹底的にこだわる真島さんのアドバイスに合わせ、演奏者たちは必死に演奏していますが、何だか楽しそうなのは決して気のせいじゃないはず。アドバイスの合間合間に飛び出す、サンバの蘊蓄(うんちく)や『宝島』のアレンジにまつわるエピソードも会場を沸かせます。途中、サクソフォンの男性がソロ演奏をするパートも作られたり、本番のさらなるサプライズゲストの登場が伝えられるなど、ますます会場は盛り上がっていきます。
続く『オーメンズ・オブ・ラブ』では、演奏者全員での迫力あるスタンドプレイも見られ、本番もピタッと全員の息が合うとカッコいいんだろうなと期待も膨らみます。
昨年に引き続き、合奏指導・指揮をする真島さんからは、「今回はレベルが高い!」とのお言葉を頂戴し、参加者の皆さんは一様に満足気な表情を浮かべていました。
本日の六曲目はご存じ『崖の上のポニョ』。ここから再び指揮台には曽我さんが上ります。
最初に通しで演奏した後、演奏席から合唱隊を募り、歌入りでの演奏を続けます。指揮台を取り囲む合唱隊員のあまりの多さに曽我さん思わず苦笑い。「演奏のほうは大丈夫?」と少し心配になりましたが、なにせ700人近くいるんですからね、その中の100人くらいが合唱隊に鞍替えしても全く問題はないようです。
七曲目も映画『インディ・ジョーンズ』から『レイダース・マーチ』。この曲では「トランペットの皆さん、カッコつけて吹いてください!」と曽我さんのからのアドバイス。そして再度、指揮は真島さんにタッチされ、『翼をください』でラストです。ここでも合唱隊が組まれ、美しい歌声と共におなじみのメロディーが演奏されました。
曽我さん、真島さんのアドバイスを仰ぎ、演奏の回数を重ねるごとに変わっていく音色。参加者の皆さんが秘めた潜在能力の高さにただただ驚くばかりです。さぁ、あとは本番のコンサートを残すのみ。本番では、どんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか!

リハーサルを終え、休憩に入る頃になると、初参加の方々や、演奏経験が浅い方たちからも不安げな表情は消え、楽しそうな笑顔がはじけます。初対面だった隣人とのおしゃべりに花を咲かせている人たち。お父さん世代の人と笑顔で会話を交わす中学生男子。お互いにアドバイスをし合う女性たち。微笑ましい光景があちこちで見られます。自由演奏会を介して、どんどんと広がる音楽仲間の輪。これも自由演奏会の楽しみのひとつです。
それから忘れちゃいけないのが恒例の抽選会。今回は曽我さん、真島さんそれぞれの直筆サイン入りCDが7人ずつ合計14人の皆さんに当たりました。
ますます演奏者同士の結束も固まって、本番へとテンションを高めていきます。



熱のこもったリハーサルのせいか、開始予定時刻より5分遅れてのコンサート開演です。まずは司会の里館さんが観客に向かってご挨拶。そして指揮台にはリハーサルの時とは打って変わって正装姿に着替えた曽我さんが登場です。
第一部のオープニングはウィーンフィルハーモニーオーケストラの十八番のひとつ『ラデッキー行進曲』。騎馬隊のマーチということで、馬が「タララッ、タララッ」と駆けていくように、音色も躍動感にあふれています。決してウィーンフィルにもひけをとらない大熱演?に観客席から見守る家族やスタッフからも大きな手拍子と拍手が沸き起こっていました。うーん、初っ端から良い滑り出しです。
続く二曲目は『バンドのための民話』。吹奏楽ではおなじみの曲とはいえ、リハーサルでは比較的時間をかけて練習した曲です。緩急はっきりした曲調が胸に小気味よく響きます。
三曲目は、それぞれに趣の異なる3つの楽章から成る『吹奏楽のための第一組曲』。リハーサルよりも格段と音がまとまっています。プレイヤー一人ひとりのレベルもきっとアップしてきているのでしょう。曽我さんの素晴らしいタクトに合わせ、皆さん、とても気持ちよさそうに演奏を楽しんでいるようです。
『ラデッキー行進曲』演奏後、「緊張している」と感想を述べていた曽我さんも、三曲を無事終え、満足気に指揮台を後にします。
第二部は、第一部とはガラリと雰囲気を変え、アップテンポなリズムのポップスナンバーを中心に繰り広げられます。まずはファンも多い『宝島』の演奏です。タクトを振るのは真島さん。そしてもちろんリハーサル同様、ドラムに染谷さん、サイレントベースに曽我さんが加わります。指揮をしている時とはまた違った表情をみせる曽我さん。プレイヤーとして参加することに喜びを感じていらっしゃるようです。でも実は曽我さん、サイレントべースを弾くのはこの時が初めてだったんだそうです! そんな素振りも見せず、見事にこなしてしまわれるところはさすが音楽家ですね。陽気なサンバのノリに会場のボルテージもグングン上昇していきます。
さらに会場を盛り上げたのが、この日一番のサプライズ、『宝島』と次に演奏する『オーメンズ・オブ・ラブ』の作曲者、和泉宏隆さんの登場。『T-SQUARE』のメンバーだったこともあるキーボード奏者で、数多くのヒットナンバーを世に送り出している和泉さん。作曲者本人の目の前で、編曲者の指揮による演奏という、夢のようなシチュエーションに会場全体が興奮しないわけありません。意外なことに初対面同士という和泉さんと真島さんもとてもうれしそうでした。和泉さんからは「僕はピアノなので一人で完結しちゃって、こうやって皆で気持ちを合わせるというのが少ない。今度生まれ変わったら管楽器をやりたいです!」とお茶目なコメントも飛び出しました。
次の『オーメンズ・オブ・ラブ』では、最後に演奏者全員がスタンディングのパフォーマンスで決めます。もう、カッコイイ!!の一言です。
そして再び指揮が曽我さんに替わり、今年大ヒットした宮崎アニメ『崖の上のポニョ』のナンバーを披露します。演奏者の中で歌いたい人を集めて大合唱隊を編成。客席にも歌詞カードが配られ、愛らしいメロディーにのせての大合唱となりました。
続いても曽我さんの指揮で『レイダース・マーチ』。リハーサルでのアドバイスが効いたのか、心なしか、トランペッターたちは自信たっぷりに吹いているように見えます。
ラストは真島さんの指揮による『翼をください』。合唱曲としておなじみのこの曲ももちろん、大合唱隊の歌声と共に演奏されました。
しかし、まだまだコンサートは終わりません。アンコールにもう一度『ラデッキー行進曲』の演奏です。アンコールでは曽我さんの提案で、客席の皆さんも手拍子で参加することに。でもただの手拍子じゃなく、3種類の手拍子を使い分けて演奏を盛りたてます。意外と難しいから、客席の皆さんも必死。だからこそ、演奏席と客席に一体感が生まれるのかもしれません。最後は演奏席と客席もバリアフリーとなって楽しめました。
リハーサルと本番を合わせ、約5時間の長丁場となった『自由演奏会』。コンサート終了後は正直、みんなヘトヘトです。でも会場を後にする参加者の誰もが充実感と達成感にあふれた表情をしているのが印象的です。そして参加者の多くが「次回も参加したい!」と口を揃えます。
昨日までは会ったこともなかった人たちが好きな楽器を持って集まり、ほとんど初見の楽譜で一回きりのリハーサルと本番をこなす。これってすごいことだと思いませんか?音楽ができるっていうことはこういうことなんだ、と思い知らされた一日でした。
だから、音楽をやったことがある人なら、ぜひ参加してみてください。これから音楽と親しみたい、という人も大歓迎。上手に演奏できなくたって平気です。経験が浅くったって、ブランクがあったって大丈夫。できるところだけ演奏すればいいんです。皆さんそうやって自由に楽しんでいらっしゃいます。次回はあなたの参加をお待ちしています!

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