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クラリネットの名曲

協奏曲編

クラリネットは、後期バロック時代(1700~1750年頃まで)に誕生しましたから、この時代に既にクラリネット協奏曲が書かれています(例えば、ヨハン・メルヒオール・モルターの作品は現在でもよく演奏されます)。しかし、独奏楽器として存分に魅力を発揮し始めたのは、古典派になってからではないでしょうか。ここでは、古典派のモーツァルト、19世紀のウェーバーの協奏曲を紹介しましょう。

W.A.モーツァルト:「クラリネット協奏曲イ長調」K.622
円熟期のモーツァルトが書いたこの作品は、A管(イ調)クラリネットのための名曲中の名曲として君臨しています。流麗な旋律と華麗なパッセージが程良くブレンドされ、モーツァルトならではの魅力に溢れているのです。彼は、友人のクラリネット奏者、アントン・シュタードラーのためにこの協奏曲を作曲しました。シュタードラーは通常の楽器ではなく、低音域を拡大した「バセット・クラリネット」を新たに開発し、モーツァルトはこの楽器のために協奏曲を書いたのです。しかし、この作品には、通常のクラリネットで演奏できるかたちの楽譜しか残っておらず、この楽譜を使った演奏が一般的です。しかし、最近では「バセット・クラリネット」を復元した演奏も現れています。

C.M.v.ウェーバー:「クラリネット協奏曲第1番ヘ短調」Op.73
オペラ《魔弾の射手》で有名なウェーバーも、モーツァルトと同様、友人のクラリネット奏者、ハインリヒ・ベルマンのためにクラリネットのための音楽を書きました。二人の友情のおかげで、2曲の協奏曲、小協奏曲、五重奏曲、ピアノとの二重奏曲の5曲が残されたわけです。ベルマンはすべての音域にわたって均一な響きを出すことのできる名手として知られていましたから、この第1番の協奏曲でも幅広い音域が使用されています。第1楽章でソロが始まる部分や第2楽章のように、美しいカンタービレを聴かせてくれる場合もあります。

デンナー作の2鍵クラリネット

ベニー・グッドマン(1909~1986)

A.コープランド:「クラリネット協奏曲」
ニューヨーク生まれの作曲家コープランドは、20世紀のアメリカを代表する作曲家の一人です。彼の協奏曲は、20世紀の偉大なクラリネット奏者、ベニー・グッドマンのために書かれました。多彩なオーケストレーションを背景に、クラリネットは技巧的なパッセージやカンタービレはもちろん、スウィング・ジャズの代表者だったグッドマンに合わせたのか、ジャズの要素も色濃く、いかにもアメリカらしい音楽となっています。ちなみに、グッドマンの演奏は多くの作曲家を引きつけ、他にもバルトークが《コントラスツ》を、ヒンデミットが協奏曲を彼に捧げています。

室内楽編

クラリネットを主役に据えた室内楽は、それほど数多く残されているわけではありません。しかし、その中には、演奏者や聴き手を引きつけて止まない優れた作品が少なくないのです。ここでは、クラリネットと弦楽四重奏(2つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)のために書かれた珠玉の名作、二曲を紹介します。

W.A.モーツァルト「クラリネット五重奏曲イ長調」K.581
協奏曲と同様に、この作品も、友人のアントン・シュタードラーのために書かれました。華やかな中にも、どこか憂愁の漂うところが、非常にモーツァルト的といえる音楽です。特に、第2楽章は深い陰影をもつ響きがたいへん印象的ではないでしょうか。この作品も、バセット・クラリネットのために書かれたのではないかと推測されており、最近では通常のクラリネットではなく、復原されたバセット・クラリネットで演奏されるケースも増えています。

リヒャルト・ミュールフェルト(1856~1913)
ルートヴィヒ・ミヒャレークのデッサン

J.ブラームス「クラリネット五重奏曲ロ短調」Op.115
ブラームスがクラリネットを用いた室内楽はこの五重奏曲のほかに、二つのソナタ、そしてピアノとチェロとの三重奏曲がありますが、この四曲はすべて、マイニンゲン宮廷オーケストラのクラリネット奏者、ミュールフェルトのために書かれました。明らかにモーツァルトの作品を意識して作られたこの五重奏曲は、晩年のブラームスの心境を彷彿とさせるような、深い哀愁と悲哀が込められています。むせび泣くような弦楽器の後を受けて、密やかにクラリネットが歌い始める第1楽章の冒頭が始まったとたん、聴き手はその独特な世界に引き込まれてしまうのです。



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